2013年3月18日月曜日

柚木ミサトさんに海外移住について聞いてみた

先日、バリにいらしていたイラストレーターの柚木ミサトさん。

実は私、初めてお目にかかりました。

前書きが少々長くなりますが、以下。

ツイッター(@pelukissを通してお知り合いになってから、
いろいろな意味でとても考えの深い方であり、
いつも絶対に前向きである姿勢に刺激され続けてきました。

今回バリにいらっしゃるに当たり震災から2年を迎える事もあって
UBUDでトークライブをしていただきました。

この催しではトークのほかに、
日本で劇場公開中の新作映画「おだやかな日常」のフィルムを上映。
恐らく海外でははじめての上映だったこのフィルム、
ミサトさんが自らが交渉し、上映許可を取ってくださいました。

バリ在住者の多くは限られた情報でしか震災の傷跡を知りません。
放射能汚染が目に見えないものであるように、
原発事故は人々の関係性を目に見えないところであっち側とこっち側に分け隔てました。
突然の出来事に人々がどれだけ翻弄されたか。
トーク会&上映後の感想はさまざまでしたが、
在住者の私たちにはとてもいい参考になったと思います。





柚木ミサトさんは震災後、「あかいつぶつぶの絵」のシリーズを描きはじめ、
ツイッター、フェイスブックなどを通してたいへん話題になりました。

抗議行動のデモのプラカード、社会を変えようと訴えかける市民団体のチラシ。
サイトからフリーダウンロードできるこの絵は、日本中の様々なシーンで活用されています。

以下はミサトさん自身の資料から。

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【あかいつぶつぶの絵】について


日本の子どもたちを放射能から守るためにこの絵を描き始めました。
この状況に気づいて、知って、学び考えて、自分の心で選択しよう。

今、日本に起きている問題は、世界中にある様々な問題と同じで
私たちは、自分たちが作り上げてしまった
「おかしな世の中」と戦っているのだ思う。

原発問題や、震災からの復興を考えるのも、そのなかのひとつです。
この世界を作ってきたのは私たちです。

ですから、私たちはこの間違った世界を変える力をすでにもっています。
私は、希望や夢、楽しみが、はりきるエネルギーを生み出すと信じている。

今まで見たこともない、あたらしい世界を心に描いて選んでいきたい。
そういうものこそ継続するし、生きるという事だと強く思います。

「すべての人が、すべてをのり越えて、子どもたちを守られるように」

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著書について


ミサトさんは昨年、「放射線になんか、まけないぞ!」という本の制作にも携わりました。

子供でも理解しやすいように配慮され、放射線について正しく知識を持てるようにと考えられた
イラストブックです。


ミサトさんのブログによれば、

「福島県郡山市の坂内智之さん(小学校の先生)といっしょに作った放射線学習テキストがはじまり。原発事故のすぐ後、4月に坂内先生が、新学期に学校で配るために作ろうとしていたのをツイッターで知ってお手伝いしました。
坂内先生の行動は早かったよ!…
震災前ではありえないスピーディーな展開。これでできたのが、『みんなで防ごう放射線』その後、内部被曝に踏み込んだテキストをOH事務所の大塚さん(編集ライターさん)に書いてもらって、先生に監修してもらって家での注意を書いた『ほうしゃのうをやっつけろ!大作戦』を作ったんだ。
大塚さんは私たちのやり取りを見てて手伝うよって声をかけてくれてたから二つ目のテキスト作りをお願いしたの。それを大塚さんが太郎次郎エディタス社さんに繋いでくれて、今回の出版になった。
監修は、坂内先生のリクエストで木村真三さんに白羽の矢が!
とにかく子どもたちのためにと、出来るか出来ないかなんて考えないで提案したことを出来るようにカタチにした本なんだ。」

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イラストレーターというお仕事を通して、
今の政治がなかなかたどり着けない大きな問題点に
あくまでも前向きなエネルギーを注ぎながら切り込んでいくミサトさん。
 
著書はどちらかといえば国内に住み続けながら工夫をしていくという角度のものですが、
そのミサトさんに、このブログのために「海外移住」というテーマについてお話しを伺いました。

場所は帰国の際の空港行き車中でした。


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「海外移住」について


Q 移住について、ミサトさんのお考えを聞かせてください。

A 移住した方がいいかどうかはその人にとってどういう背景か、ということによりますよね。
これは外からアドバイスを求めるより、やはり自分で決めなくてはならない事だと思うんです。

移住に限らず、放射線から身を守ることはアタマがカタいとやりにくいことだと私は思う。

何のために移住するか、放射線を避けるため? いや、本当はそれが最終的帰着点ではなくて、移住した先でそれまでよりもっと幸せに生きるため。

…そう考えていればハッピーな移住につながるかと。

移住というのは、人生を幸せに生きるための付録のようなものです。

幸せに生きるついでに移住するような感じ、その位のエネルギーのかけ方だったら。

一生そこに住もうと思わなくても、とりあえず2年とか。

2年くらい経てば日本でも動きが出てくるかもしれないし、期間限定の(移住の)考え方にしておけばフットワークも軽くなるんじゃないかな。

先程も言ったように、移住の目的は何? →放射線を避けること。 放射線を避ける目的は何? →幸せに暮らすこと、…という点を忘れないでいたらいいと思う。

Q 今回バリですでに移住してきている人とも会われましたよね。何か思ったこと、ありますか?

A それ程深く話しをしていないし、それぞれ状況も違うし、それぞれだなぁ、と思うんだけれど。

Q ミサトさんはお仕事柄、放射線の問題点については詳しいお一人だと思うのだけど、例えば、今、各地で問題になっている瓦礫の焼却についてはどう思われますか? 
福島からは遠いからと安心していた地域の人たちが今移住について真剣に考えだしているように思うのですが?

A やはり、その人の生き方の問題かなぁ。
震災後、世の中にはいろんなリスクが増えているけれど、瓦礫焼却からの放射線がどれだけ(人体などに)影響するか。全く無いわけではないと思うけれど、
薄い放射線よりもアスベストなど他の化学物質が燃やされることの方が気になるし
あと、どちらかというと、
わざわざ瓦礫を遠いところまで運んで焼却するような経済システムの国だという事の方が何倍も怖い気がします。
リスクはリスクだから。それをきっかけに日本を脱出、というシナリオはアリだと思う。

ただ、瓦礫の焼却によって降り積もる放射線の影響だけを憂慮する移住というのだと、移った先でのリスクとのバランスが良くないかもしれないです。

Q 12月の選挙の結果なども含めると、日本の流れにこの先希望が持てるかどうかと心配している方は多いですよね。

A 大阪、九州の瓦礫焼却の放射線の影響だけでは、私だったら移住しないかもしれませんが、今の日本を相対的に見たら。
もしまたもう一つの原発が爆発事故を起こしたら。
子供たちが通っている学校給食を仕入れている食品流通は、それでもやはり変わらないかもしれないし。
…そうした理由まで含めたら、移住というのは十分に考えられますよね。
とにかく総合的に見ておかないと、移住先で(その他含め全体的な)「リスク」が下がったかどうか、分からなくなるかもしれません。


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海外移住を「支援する」ことについて


Q バリから日本を見ている私たちの中には、もっと(たくさんの人が日本から)こっちに来たらいいんじゃないかって思っている人も多いんですが。

A 相対的に見たら(日本に居続けることは)やはり危ないと思う。その中であまり多くの人が動いていないのはもどかしい感じがするの?

Q もどかしさもあるかもしれないけど、外側から見てやはりかなり危険度が高まっていると思うのがまず一つ。あと、いいことしたさで、自分でも何かできないかって思うところがもう一つ。
でも、移住したいと考えている人が被災地じゃないところの人が多いのが現実で、思い描くイメージとあまりピッタリと合わない気もしています。

A もう2年経ってるでしょ。
もし私がバリにいたらと思うと、広報の仕方を考えたいな。
もっとオープンに一般的にするものと、もっとツボを押さえてピンポイントにするものと。
そろそろ、人の顔が見えていなくてはならないと思う。
そこに住む人がどういう人で、子供は何人で何歳で、経済的にはどんなで、将来の考え方はどうであるかなどなど。そういうことまで掘り下げて一緒にバリでの生活がいいかどうか考えて提案していくような。今はもうそういう段階だと思う。

今はそれ全体がチャンプルになっちゃってるかもね。ちょっとつまみたいだけの人にすごく深押しになっちゃったり、バリに合わない人にも押し付けちゃうような部分もあるのかも。

Q お節介をする側も、最終的帰着点をどうしたいのか、どうあるべきかが漠然としている部分があるかもしれないね。

A 例えば、お母さん目線での暮らしのブログとか。意外とそういうのがない気がする。移住を考える上でリアリティっていう部分(を参考にすること)は結構あると思う。写真が多くて楽しく読めるようなブログとか。そういうものが意外と遠回りのようで結構近いかもしれないね。バリにまだ来たことがない人に来てもらうための効果は、そういうところにもあるかも。

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ミサトさんのご意見、いかがでしたか?

2年が経ち、これからどこでどう生きるかという問いかけは、ますます色濃くなってきているように思います。

皆さんからのご意見、コメントにお寄せください。